駆け出し脚本家の映画レビュー

映画の分析とレビュー

【★4】ゼロの焦点【元祖推理物】

1961年に公開された、推理映画です。

原作は松本清張の小説。2009年にも映画化がされている作品です。

 

1961年といえば半世紀以上も前の作品で、時代背景などついていけない部分もあるのではないかと少し不安になりましたが、展開がころころ進んでいき、「真実はどうなっているんだろう」という気持ちを終始抱きながら観ることが出来ました。

推理物映画の先駆けです。

白黒映画でとっつきにくいところもあるかもしれませんが、映画の時間も95分とかなり短めのため、いつもと違う感じの映画を観てみたいと思った時にオススメです。

主演は久我美子さん。とても美しい方です。

 

【ネタバレなしのあらすじ】

主人公の禎子(ていこ)はお見合いで憲一と結婚するが、1週間ほどで憲一は行方不明になってしまう。禎子は消えた憲一を探しているうちに、憲一の秘密を知ることになる。

 

以下、ネタバレありの分析。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【簡単なストーリーの流れ】

 

この作品のストーリーを簡単に表すと、

 

禎子が消えた憲一を探す。

→憲一の兄が街娼に会ったあとに死に、憲一が過去に風紀係をしていたと知る。

→1年後、禎子は佐知子に会い、自分の考えをぶつける。佐知子が真相を語る。

 

という流れになります。95分の作品の中で、おおよそ30分ごとに①→②→③と推移していきます。これを踏まえて、この作品の面白さを考えていきます。

 

 

【この作品の面白さ】

 

①禎子が僕らと全く同じ立場にいる→作品の展開にわくわくできる

 

禎子は夫の憲一とお見合い結婚をしたため、現在広告会社で働いているということ以外には夫のことをほとんど知りません。そんな夫が結婚して1週間ほどで行方不明になってしまうのです。「憲一はどうして消えたんだろう?」と僕らが疑問を抱くのと全く同じように、禎子自身もどうして消えてしまったのか見当もつかないという状態に陥ります。だからこそ禎子と同じ目線で、次第に明らかになっていく事実に夢中になっていけるのです。その感情移入のしやすさというのがこの作品を面白くしている一要素になっています。

 

②展開の速さ

 

95分という映画としては決して長い部類の物ではないですが、これだけこの映画が短いのは、恐ろしいほど速く展開が進んでいくからです。身元不明の肢体が見つかったからといって金沢まで行って何も得られなくなり、義兄に「あいつは絶対生きてる」と叱咤されて東京に帰ったかと思えば、突然兄の死亡の電報が届いたり、またそれによって夫が過去に街の風紀を取り締まる仕事についていたことを初めて知ったり、もう本当にめまぐるしいほど展開が速く進みます。トイレにいくために少し席を外したら全く状況が変わってしまって、巻き戻すしかないぐらいの勢いです。だからこそずっと映画に夢中になっていられ、禎子と同じ目線で作品を見ている僕らは真実に近づいていく毎に快感のようなものを感じることができるのではないかと思います。

 

③人間臭い事件の顛末

 

この映画を途中で見るのを辞めてしまったら、きっと面白いとはあまり思わないでしょう。この作品が面白いのは、夫である憲一の失踪の原因とそれに関連する事件を引き起こした佐知子が非常に人間臭く、弱さをもった人間であるからだと思います。一見すると社長夫人として何不自由のない生活を過ごしているように思われる佐知子が、実は昔街娼をしていたという消したい過去があった。憲一は街娼の取り締まりの仕事をしていたため、自分のその過去を知っていると思って接していたが、実は全く知らず、自分の失言によりわざわざ憲一にその過去を話すことになってしまった。そんな愚かな自分に対するやるせなさ。それに加えて当時女性の身分は極めて不安定で、もしそんな過去がばれてしまっては社長夫人としての自分の地位も危うくなるのではないかという恐怖。さらに反省して自分のやってしまったことを全て警察に白状しに行こうとするも、毒薬入りの酒を偶然飲んだ親友を誤って殺してしまうという、もうどうにもならないやるせなさ。

よかれと思って進んだ方向が全て崖っぷちだったような佐知子。そんな佐知子という不器用な人間に対する同情心のようなものが沸き起こってきて、殺人犯だからといってただ非難する事もかわいそうに思えてくるような、不思議な感情を抱きます。もし佐知子がただの愉快犯だったり、嫉妬に狂った殺人鬼などであったらこのような感情は全く抱かないでしょう。ある意味「かわいそう」な人間として佐知子が描かれるからこそ、この作品は面白いんだと思うのです。

 

 

【まとめ的なもの】

※主人公への感情移入のしやすさ(禎子も夫の行方不明の理由に見当がつかない)

※展開の速さ

※犯人が弱さを抱えた人間であるという人間臭さ

これらがこの作品を面白くしている要素だと僕は思います。なんだかものすごく真面目に書いてしまいましたが、それはこの『ゼロの焦点』という作品が僕にそうさせるのでしょう。半世紀前に生まれた元祖推理もの映画であっても、やはり面白さには理由があるのだということを痛感しました。

 

 

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